出口汪 講師

教えられたこと

大学に強烈な先生がいて、僕と180度あわなかったけど、その先生に身をもって教えられたのが、大きなもので、かつ、自分と一番遠いものに、向き合えってことかな。人間は、近いものだとほっといたってやるわけだけど、自分から遠いものとか、嫌なものってのは遠ざけようとするよね。それが非常に大きなものであったときに、やっぱり避けるのはよくないのね。どういうことか具体的にいうと、僕は大学の頃すごく感覚人間であって、先生に卒論で太宰治をやりたいといったんだ。でも先生にダメと言われて、その次に川端康成をやりたいといった。それも、だめだと言われて。最後に芥川龍之介といった。まぁ好きな作家を並べたんだね。でも、結局だめだといわれた。何でだめなんですかって聞いたら、君、三人の共通点は何か、と聞かれて。わからなかった。すると先生に3人とも自殺している作家だ。君がその自殺した3人をあげて、ぞっとしたよって言われて。その後、一番嫌いな作家は誰だと聞かれたので、森鴎外です、と答えたら、森鴎外をやりなさいといわれた。だから、学部2年と博士課程で7年間、嫌いな森鴎外と向き合ったんだよね。そのときはものすごく反発して、結局、学問に身が入らず、予備校のほうにいってしまったんだけど。大学辞めてその先生が死んでから、なぜあんなことをいったのかようやくわかった。僕は、好きな作家を三人あげている。三人とも感覚的な作家であって、行き詰って自殺している。おそらく三人は僕に近かったから、僕はその作家をあげたんだと思う。それで、もし鴎外を嫌い一生鴎外に触れかったら、僕は、僕の好きな非常に狭い世界だけを絶対だと思ってしまい、他のものをみないような、非常に狭い人間になっていた可能性があるんじゃないかと思うんだよね。だから、逆に自分と遠く、なおかつ大きいものをやることによって、自分のもってなかった物差しを持ったり、あるいは自分の世界が広がって、成長した気がするよな。

MESSAGE FOR READERS

今信じている価値観を信じないほうがいいと思うね。というのは、今、日本も世界もこれからちょうど新しい時代に変わろうとしているところであって。今までの世の中というのは、いかに多くのものを生産するのか、その効率、有効性。そういうのが問われる社会だった。だから、いかに進歩するのかと言われてきた。ところが今は、進歩すれば、生産性を高めれば、環境が破壊されるという、今まで良しとされたことが、逆にマイナスに変わっていくような、こういった時代になっているわけ。また、日本が西洋の模倣で追いついたように、中国や韓国や東南アジアのいろんな国が同じことをやってしまっていると。こういった中で、今までの日本のやり方というのは、ことごとく通用しなくなっているわけなんだね。だから、今までの既存の価値が全部壊れるの。だから、かつては今までの価値観を身に付けて、その価値観に添った生き方をしていれば成功したんだけど、おそらく、今までのやり方でやった人っていうのは、ことごとく失敗していくと思うよ。そういった中で、君たちは新しい時代を生きていくわけで、そういう意味では大変な時代を生きていくし、それと同時におもしろいと思う。だから、逆に君たちの能力ひとつで、大成功する可能性が起こりうるめったにない時代の狭間じゃないかと僕は思っている。

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